データクリーンルームとは?Cookie規制で注目を集める理由と活用メリット

近年、データ活用はどんどん進化し、行動履歴やタッチポイントなど、さまざまなデータを統合させるデータドリブンによるマーケティングが主流となってきています。

一方で、ユーザーのプライバシーを保護する動きも進んでおり、「Cookie規制」や「改正個人情報保護法」などは多くのマーケティング担当者が関心を向けているのではないでしょうか。

こうした動きの中、ユーザーのプライバシー保護とデータ活用を両立させるためのプラットフォームとして注目されているのが、「データクリーンルーム」です。

2023年にLINEとYahoo!が統合されたLINEヤフー株式会社では、「ユーザープライバシーファースト」を指針として掲げ、データクリーンルーム活用への期待が高まっています。

本記事では、今後一気に需要が高まっていくであろうデータクリーンルームについて、詳しく解説していきます。

目次

データクリーンルームとは?

データクリーンルームとは、ツールそのものを指す名称ではありません。Googleなどユーザーデータを持つプラットフォーマーが提供するクラウド環境のことを指します。

データクリーンルームでは、プライバシーが保護された安全な環境下でユーザーの同意によって取得したデータにアクセスし、1st Party Data(企業が保有する顧客データ)などと統合・分析が可能です。別名データバンカーとも呼ばれます。 代表的なデータクリーンルームにはGoogleの「Ads Data Hub」、Amazonの「AWS Clean Rooms」などがあり、提供しているプラットフォーマーにより仕様や特徴がそれぞれ異なります。

データクリーンルームの仕組み

データクリーンルームの仕組みを分かりやすくすると、以下2つのステップから成り立ちます。

  1. 利用企業が持つデータをデータクリーンルームに接続する
  2. 提供プラットフォーマーが持つデータと掛け合わせて分析を行う

利用する企業がデータクリーンルームと接続させるデータは、あくまでも「個人識別情報(PII)を除去・加工し完全に匿名化したもの」で、アクセスできる人物の限定も可能です。

またデータクリーンルーム内にあるデータについても、匿名化されています。そのためデータクリーンルームで分析したデータは、プライバシーを侵害することなく、広告配信やキャンペーンなどさまざまな施策へと応用可能です。

データクリーンルームが必要とされる3つの要素

データクリーンルームに注目が集まっている背景には、以下3つの要素があげられます。

● データプライバシー法の施行
● Cookie依存からの脱却
● ビッグデータ活用ニーズの高まり

それぞれ具体的にどのような動きがあり、データクリーンルームのニーズが高まっているのかを解説していきます。

1.データプライバシー法の施行

世界的な動きとして、2018年に登場したGDPR(EU一般データ保護規則)を起点に、プライバシー保護に関する法規制が一気に進んでいます。

日本でも2022年4月に改正個人情報保護法が全面施行されており、プライバシーに配慮されたデータクリーンルームの利用は、法規制への対応と個人情報の利活用の両立に役立ちます。

Cookie依存からの脱却

長きに渡り活躍してきたCookie活用のマーケティング手法ですが、前述した世界的なプライバシー保護意識の高まりから、廃止の動きへと変わっています。

Googleでも、2024年から段階的に3rd Party Cookieを廃止すると発表。現時点では1st Party Cookieに規制はないものの、リターゲティング広告やWeb広告効果の計測などへの制限は避けられません。

一方でデータクリーンルームはCookieに依存しない仕組みのため、現段階から利用を進めることにより、Cookie規制によるダメージへの備えにしておけるでしょう。

3.ビックデータ活用ニーズの高まり

将来的に、各企業が生き残るためにはビッグデータの利活用が欠かせない課題です。

ITの進化やDX推進により、データは”ただ集めればいいもの”ではなくなってきています。

「Volume(量)」「Velocity(速度)」「Variety(多様性)」「Veracity(正確性)」「Value(価値)」の5Vから構成される価値のあるデータとして、運用していかなければなりません。

しかし自社単独でのデータ収集には量や速度、多様性にも限界があります。そこでデータクリーンルームを活用することにより、大手プラットフォーマーが所有する膨大なデータを得られるようになります。

また提供元により差はありますが、柔軟な分析手法を選べることも、データクリーンルームの特徴です。

データクリーンルーム活用のメリット

データクリーンルームを活用すると、どのようなメリットが生まれるのでしょうか。

● プライバシー保護とセキュリティの強化
● ビッグデータ分析
● 外部向けの企業PR

この項目では、上記した3つのメリットについて、詳しい解説を進めていきます。

1.プライバシー保護とセキュリティ強化

前述のとおり、プライバシー保護に関する法規制は世界的に加速しており、企業がデータの収集や分析においてプライバシー保護を強化していくことは、重要な要素です。

データクリーンルームを活用するメリットのひとつめは、個人情報が特定できない形式でデータ分析を進められること。

データクリーンルーム内のデータには、運転免許証番号やマイナンバー、銀行口座番号など、1つの情報で個人を特定できる機密性の高いデータは含まれていません。加えて、データクリーンルームでやり取りするデータは、暗号化されています。

そのため万が一情報漏洩となってしまった場合でも、流出リスクを最小限におさえることができます。

2.ビッグデータ分析

データ分析の精度は、分析対象のデータの量と質に依存します。

● マーケティング効果の最適化
● 新たなビジネスインサイトの発見
● 顧客理解の向上

データクリーンルームの活用により異なる企業間でデータを安全に共有することで、上記したような自社単独ではなかなかたどり着けない、新たな視点による分析結果も得られることは、企業にとって大きなメリットです。

また、元データの出所が明確であり、データに不確定要素が混ざりにくい点も特徴です。

3.外部向けの企業PR

データクリーンルームの活用は、取引先や顧客に対してプライバシーを尊重する企業だとアピールできることに繋がります。

昨今、個人データの漏洩のニュースも少なくないため、情報管理で信頼できるパートナーなのかは、より重要になってくるかと予想されます。今後の取引のためにも検討しておきましょう。

データクリーンルームの具体的な活用方法を紹介

大きなメリットは前述したとおりですが、具体的な活用方法を知らなければ、メリットのイメージも湧きませんよね。そこでこの項目では、データクリーンルームをどのように活用していくのか、より具体的に掘り下げて解説を進めていきます。

ECサイトでの顧客プロファイル強化

ECサイトでのデータクリーンルーム活用は、事例として多くあがっています。

たとえばファッションを扱うECサイトを運営している事業者にとって、1st Partyデータだけでは十分なデータを集められません。

ファッションという大きなカテゴリでは、適切なインサイトまで抽出できないからです。そこでデータクリーンルームが持つ2nd/3rd Partyデータと、自社データをかけ合わせて分析を行います。

「Aというユーザーはスニーカーをよく検索している」というデータが、Amazonデータから抽出された場合、該当ユーザーに対してはより多くのスニーカー情報を提示することができます。

ここでのポイントは、データクリーンルームによって抽出されるものに、個人情報が含まれないことです。

いわば「匿名の顧客プロファイル」が作成でき、新たな切り口でのインサイト発見にもつながります。

複数事業者間でのデータ共有によるマーケティング施策強化

複数事業者間でのデータ共有ができることも、データクリーンルームが持つ大きな強みと言えます。

観光業界であれば「旅行会社」や「鉄道会社」、教育業界であれば「学習塾」「大人向けサービス業」「企業向け研修」といったように、1つの業界にはさまざまな企業が携わっているはずです。

データクリーンルームは、複数事業者のデータを横断的に抽出してくれます。たとえば同じ業界内のA社とB社のデータを合わせれば、より成功率の高いマーケティング施策が打てるのではないでしょうか。

センシティブなデータを安全に扱い児童支援やヘルスケアに活用

どの個人情報も同等に扱われるべきですが、児童に関すること・ヘルスケアに関することについては、よりセンシティブな一面を持っています。

たとえば医療業界においては、病歴などは「要配慮個人情報」とされ、デジタル化が進んでいないこともあり、患者が転院するときに医療データが引き継がれないケースも多いのが現状です。

しかしデータクリーンルームがあれば、個人が特定されない匿名環境のもと、さまざまな症例や調剤などの医療データを統合させることができます。副作用や統計分析はもとより、医療や介護現場のサービス向上にも活用していけます。

また児童の個人情報については、世界各国でデータ提供の規制が厳しくなっています。こうした規制は児童の安全を守るために必要ですが、家庭内暴力や貧困に直面している児童を見逃してしまうリスクも考えなければなりません。

データクリーンルームを活用すれば、行政機関のデータ(生活保護、検診等)と教育機関のデータ(出席状況、給食費滞納状況等)を統合できるため、より効率的な児童支援へとつながっていくでしょう。

データクリーンルームとCDP、パブリックDMPの違い

データクリーンルームとCDP、DMPは混同されやすいため、その違いについてここで整理します。

カスタマーデータプラットフォーム(CDP)との違い

CDPとは、企業が持つさまざまなデータを集約・分析するためのデータ基盤となるものです。たとえば「Webのログ」や「カスタマーセンターへの問い合わせ」「会員属性」などは、従来バラバラに管理されていました。

CDPではこうした散らばったデータを1つにまとめることにより、より正確で詳細なデータ運用・持続可能なデータ蓄積などに活用していくことができます。

CDPが「社内で蓄積したデータの集約・分析」であるのに対し、データクリーンルームは「外部データと社内データのかけ合わせで行う分析」です。

また、CDPで取り扱うデータには、氏名や住所などの個人情報も含まれます。データクリーンルームでは、個人情報は特定できません。

データマネジメントプラットフォーム(パブリックDMP)との違い

DMPもまた、データ収集と分析するものという点では同じですが、その利用目的は「広告の最適化」に限定されています。

1st Party Dataを取り扱う「プライベートDMP」もありますが、主流となっているのは匿名化した3rd Partyデータを取り扱う「パブリックDMP」の方です。

異なる企業間でのデータ共有という点では、データクリーンルームと同じ性質を持ちますが、DMPにはCookieも含まれるツールもあります。そのためDMPの新規導入を検討している場合には注意が必要で、徹底したプライバシー保護という観点からはデータクリーンルームの方がリードしているでしょう。

またデータクリーンルームの利用目的が、広告の最適化だけに留まらないことも、大きな違いですね。

データクリーンルームは大きく分けて3種類

データクリーンルームの形態は、大きく3種類に分けられます。

以下で3種類の形態と、それぞれに属するプラットフォーマーの代表例を見ていきましょう。

ウォールドガーデンDCRアプリ仲介型のDCR企業が構築したDCR
・Google Ads Data Hub
・Facebook Advance Analytics
・Amazon Marketing Cloud
・LiveRamp
・AppsFlyer
・Habu
・Snowflake
・Infosum
・AutoPrivacyDataCleanRoom

ウォールドガーデンDCR

ウォールドガーデンDCRは「クローズド・プラットフォーム」とも呼ばれ、巨大プラットフォーマーが提供するタイプのデータクリーンルームです。

このタイプのデータクリーンルームが持つ特徴は、GoogleやAmazon、Metaなどが持つ膨大なデータと組み合わせた分析が実現すること。

そのため即効性の高いターゲティング広告に活用していけることが、最大のメリットと言えるでしょう。

一方で提供側であるGoogleやAmazonなども、ユーザーが自社プラットフォーム内に長く留まる環境となり、新たなデータを囲い込める恩恵を受けます。

アプリ仲介型のDCR

アプリ仲介型のDCRは、複数の広告媒体を集めたアドネットワークとの仲介を行うタイプのデータクリーンルームです。

対象データはアプリ領域に限定されますが、アドネットワークとアプリをデータクリーンルームが連携させることにより、ユーザーのデータを取得できるようになります。

たとえば、「アプリ内でのユーザーの行動」をトラッキングするためのシステム構築は、簡単ではありません。

そこでモバイル計測に特化したデータクリーンルームである「AppsFlyer」を活用すると、アプリをインストールしたユーザーや、ユーザーをタイプ別にリスト化することまで可能になります。

企業が構築したDCR

データクリーンルームを提供するのは、GoogleやAmazonなど巨大プラットフォームだけではありません。各企業が独立したデータクリーンルームを構築しているタイプもあります。

中でも「Habu」は、もっとも知名度の高いデータクリーンルーム提供企業と言えるでしょう。Amazonが提供するクラウドサービスAWSなどにアクセス可能で、さまざまな企業が提供するデータクリーンルームをひとつにまとめることができます。

また2016年に設立された「Infosum」は、徹底したプライバシー保護を行っているデータクリーンルームとして知られています。同社のデータクリーンルームは、データの移動や共有せず、安全にファーストパーティーデータを運用できるため、漏洩や悪用のリスクを徹底的に排除。

このように各社が提供するデータクリーンルームには、異なる特徴があります。

まとめ

データクリーンルームとは、個人が特定できない環境のもと、企業や行政機関が持つさまざまなデータを統合し、分析に活用していけるプラットフォームです。

データクリーンルームが活用できる領域は、金融・医療・製造業・教育……と多岐に渡ります。

「Cookie規制の影響を受けそうだけど、導入のステップがいまいち……」
「うちの会社でデータクリーンルームを導入したら、どんな変化があるのかもっと具体的に知りたい!」

など、データクリーンルームのの疑問やお悩みは、ぜひSORAMICHIにお気軽にご相談ください。

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